日本維新の会:ドクター・中松氏が商標登録を出願
発明家のドクター・中松=本名・中松義郎=氏(84)が昨年12月、「日本維新の会」の名称を商標登録するため特許庁に出願していたことが3日分かった。同庁は今年8月に認めない決定をしたが、11月までは中松氏が異議を申し立てることが可能。橋下徹大阪市長率いる新党「日本維新の会」側は困惑している。
特許庁によると、中松氏はセミナーの企画・運営や書籍の製作などの目的で使用するとして出願。仮に登録が認められていれば、第三者が中松氏に無断で「日本維新の会」の名称を用いてセミナー開催などを行うと商標権侵害にあたる恐れがあった。
中松氏は毎日新聞の取材に「景気回復させるため、90年ごろから講演や自著で『平成維新』を訴えてきた。最近、維新という言葉をまねする人が増えたので出願した」と主張。維新幹事長の松井一郎大阪府知事は記者団に「今から政党名を変えることはできない」と話し、出願を検討する考えを示唆した。
民主党や公明党は「無関係の人の名称使用を防ぐため」などとして商標登録を出願し、認められている。【熊谷豪】
2012/10/4【毎日新聞より引用】
橋下氏率いる「日本維新の会」のロゴ
こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。
ドクター・中松氏が「日本維新の会」を商標登録出願した!
ネットやツイッターなどで話題となっており、いろいろな立場の方が好き勝手言っていますね(笑)
今回は、この騒動の真相を明かしますよ。
「日本維新の会」は商標登録されていません
既に商標登録されているかのように語っている方も多いですが、拒絶査定がされています。特許庁の審査官は、登録を認めないとする最終判断を下したわけです。
ドクター・中松氏がこの拒絶査定に納得できない場合は、拒絶査定不服審判を請求することができます(商標法44条1項)。
拒絶査定の起案日が8月16日となっているので、拒絶査定不服審判の請求は11月の中旬頃までは可能です。拒絶査定不服審判の請求可能期間が過ぎれば、「日本維新の会」の拒絶が確定します。
まあ、拒絶査定不服審判で争っても勝ち目は薄いでしょう。
「東京都維新の会」・「平成維新の会」は商標登録が認められている!?
ところで、ドクター・中松氏が商標登録出願したのは「日本維新の会」だけではありません。
平成23年(2011年)12月16日に、「日本維新の会」、「東京維新の会」、「東京都維新の会」、及び「平成維新の会」の4つの商標を出願しています。
で、なんと!
「日本維新の会」、「東京維新の会」は拒絶査定がされ、「東京都維新の会」、「平成維新の会」は商標登録されています。
4つの商標すべてが拒絶査定となっているのならば、その理由はある程度予測できます。この場合は、橋下徹大阪市長率いる「日本維新の会」あるいは「大阪維新の会」の存在がその理由となるでしょう。
しかし、「東京維新の会」は拒絶査定となったにも関わらず、「東京都維新の会」は登録されているのです。ナゼなんだ!?
特許庁のWebページの情報だけでは詳細はつかめません。
理由を確かめるべく、お金を使いました(笑)
4つの商標について有料の「閲覧請求」をしてみると・・・
「日本維新の会」、「東京維新の会」が拒絶された理由、それは商標法4条1項7号です。
ちなみに、4つの商標の審査のすべてを同一の審査官が担当していました。
商標法4条1項7号は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない。」というものです。
「日本維新の会」、「東京維新の会」の登録が審査で認められなかったのは、「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する」(商標審査基準)ということでしょう。
ドクター・中松氏が4つの商標で権利取得を希望したサービスは、
です。
よって、仮にドクター・中松氏が「日本維新の会」、「東京維新の会」について商標権を取得したとしても、橋下氏らが政党名として「日本維新の会」を使用できなくなることはありません。
とはいえ、ドクター・中松氏の許諾なく「日本維新の会」、「東京維新の会」を使用してのセミナーの開催などが困難になるわけですから、その影響は大きいですね。
さて、ドクター・中松氏が出願した商標に対して、橋下氏率いる「日本維新の会」や「大阪維新の会」の存在が理由となって商標法4条1項7号が適用されているのであれば、「東京都維新の会」が拒絶されてもおかしくありません。
審査官が理由としたのは、橋下氏らの政治団体の存在ではありませんでした。
出願日が昨年の12月16日であることが考慮されたのかもしれません。
「日本維新の会」・「東京維新の会」が拒絶された理由
まず、審査官は平成24年(2012年)5月10日に起案した拒絶理由通知書で、登録できない理由を以下のように述べています。
この商標登録出願に係る商標は、「日本維新の会(東京維新の会)」の文字を標準文字で表わしてなるところ、該文字をインターネット検索してみると、2011年に設立した日本の政治団体の名称と認められます。
そうすると、これをその指定役務について使用した場合、一私人である出願人が上記のような政治団体と何等かの関係がある者であるが如く需要者が誤認をするおそれがあり、かつ、商取引の秩序を害するおそれがあるものと認められます。
したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第7号に該当します。
これに対し、ドクター・中松氏は平成24年(2012年)7月4日に提出した意見書で、「日本維新の会(東京維新の会)は平成24年5月に設立されているところ、本願はその設立前の平成23年12月16日に出願しているので、出願人(ドクター・中松氏)が先に使用する権利を有する。また、出願より後に設立された政治団体と何等かの関係があると需要者が誤認を起こすおそれはないので、商標法第4条第1項第7号に該当しない。」旨を述べて、反論しています。
しかし、前記審査官の判断は覆りませんでした。
出願人は、意見書において種々述べていますが、「日本維新の会」は2011年(平成23年)2月18日/「東京維新の会」は2011年(平成23年)2月24日に、民主党の国会議員を中心に設立した政治団体であり、先の拒絶理由通知の示したとおり判断するのが相当ですから、先の認定を覆すことはできません。
これで、なぜ「東京都維新の会」は登録されたのかがわかりました。
審査官は橋下氏らの政治団体ではなく、民主党の国会議員を中心に設立された政治団体の存在を理由に登録を認めなかったのです。
「東京都維新の会」を掲げた政治団体がドクター・中松氏の出願前に存在しなかったので、「東京都維新の会」を拒絶する理由はないと考えたのでしょう。
すっきりしましたね。
なお、例えば橋下氏らが自らの政治団体の存在を理由として、ドクター・中松氏の登録商標「東京都維新の会」に対して商標登録無効審判(商標法46条1項)を請求すれば、「東京都維新の会」の商標権ははじめからなかったものとされる可能性はあります。
「平成維新」は著作権?
ここからは、おまけです。
ドクター・中松氏は「自著「平成日本を診断する」において「平成維新」という言葉を使っているので、「平成維新」の著作権は自分が持っている。」と述べているようです。
仮にこれが事実であるなら、ドクター・中松氏の著作権に対する認識は誤っていますね。
前回・前々回の記事の復習となりますが、著作権の対象となる著作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術又は音楽の範囲に属するものをいう、とされています(著作権法2条1項1号)。
よって、思想又は感情を創作的に表現したと評価できる文章であれば著作権が発生しますが、「平成維新」という単語自体に著作権は認められません。