「メンタリスト」商標登録問題、人気海外ドラマにも飛び火か?
「メンタリスト」という名称が商標登録申請されていることが話題になっている。日本ではDaiGoが「メンタリスト」を自称して超常現象パフォーマンスを行っているが、今回の件で出願人となっているのはDaiGoではなく、日本メンタリスト協会という団体だ。
(中略)特許電子図書館を参照すると、これらの名称が商標として出願されたのは今年4月。早ければ、今月中にも認められるという報道もある。その場合、DaiGoはもちろん、ほかのことにも影響が及ぶ可能性は十分考えられる。
その一つが、海外ドラマ「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」だ。原題が「THE MENTALIST」であるとはいえ、商標登録が認められた場合はタイトルを変更、もしくは使用料を払う必要が出てきてしまう。(中略)同作のファンは、今回の騒動がどう転ぶのか、気になるところだろう。(堤本敬太)
2012/8/10 【シネマトゥデイ映画ニュース】
巷を騒がす「メンタリスト」商標登録出願問題―その経緯
こんにちは。
さて、今回もまた商標登録トラブルに関する話題をひとつ。
最近、テレビなどで話題のDaiGo(ダイゴ)さん、ご存知ですか?
竹下登元総理のお孫のDAIGOさんではありませんよ。うぃっしゅ!
「すべての超常現象は科学的に再現できる」を信条として、他人の心を読み取ったり、フォークを自在に曲げたりと、科学・心理学に基づいた様々なパフォーマンスを行い活躍中の、「メンタリスト」のほうのDaiGoさんです。
その「メンタリスト」DaiGoさんが、今、商標登録問題に巻き込まれており、さらに、その騒動が海外ドラマにまで飛び火したというのです。
◆経緯1・「メンタリスト」を商標登録出願している団体がいる!?
それは、「日本メンタリスト協会」という団体です。同協会は「メンタリスト」を標榜してはいますが、DaiGoさんとは無関係。
会長は藏本天外氏という方で、ハイパーメンタリストを名乗り、自己啓発テキストなども販売しているといいます。
この協会が設立されたのは、DaiGoさんがテレビなどで活躍し始めた今年、2012年の2月のこと。
そして、設立から2か月後の4月には、「メンタリスト」など4つの名称で商標登録出願をしていたらしいのです。
◆経緯2・「メンタリスト」商標登録が発覚!
DaiGoさんが所属しているメンタリズム研究会「CALL3(スリーコール)」に、ファンの方から問い合わせがありました。
「8月に公開するっていう『メンタリスト響翔』っていう映画に、DaiGoさんも出るの?」
「スリーコール」側は、まったくの寝耳に水だったといいます。
そこで、調べてみると、その映画の主演は、「日本メンタリスト協会」会長・藏本天外氏―。
事ここに至って、DaiGoさんも急ぎ商標登録出願に動き始めましたが、遅きに失していました。
すでに4月の時点で、「日本メンタリスト協会」によって、「メンタリスト」、「メンタリズム」、「メンタリスト藏本天外」、「TENGUY」の4つの商標登録出願がなされていたのです。
◆経緯3・「メンタリスト」商標騒動が人気海外ドラマにまで飛び火
そして、その「メンタリスト」商標登録トラブルは、大人気の海外ドラマにまで及んでいます。
その海外ドラマのタイトルは、『THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル(原題「THE MENTALIST」)』。
…うん、影響をモロに受けそうですね。
これまででも、さんざん述べられてきましたが、商標というのは、原則、「先願主義」なのでしたね。
ラフな言い方をすると、“早い者勝ち”、です。
今回出願された「メンタリスト」の商標登録が認められたならば、やっぱり、DaiGoさんやこの海外ドラマは、「メンタリスト」の名称を使えなくなってしまうのでしょうか?
そうなると、肩書き・タイトルを変更するか、使用料を払って使わせてもらうか…。
いずれにしても、苦渋に満ちた選択を迫られちゃうんでしょうかね…。
本当に「メンタリスト」が使用できなくなってしまうの?
さて、ここからはiRify国際特許事務所・弁理士の河合が引き継ぎましょう。
浅見編集長、悩んでますね(笑)。
結論から述べると、
「日本メンタリスト協会」以外は誰一人「メンタリスト」を一切使用することはできません!
―なんてことにはなりません(笑)。
その理由を解説しましょう。
「この言葉を誰にも使わせたくない!」
商標権を取得しても、この願望を満たすことはできません。
商標権は、権利を取得した商品・サービスについて、その言葉や図形などを“商標として”独占できる権利です。
例えば、指定商品を「被服」として商標「ABC」を登録した場合、他社が「ABC」をタグに付したTシャツを許可なく販売すると商標権侵害となります。
一方、「ABC」を付した電子辞書を販売する行為や、「ABC」の看板を掲げてレストランを経営する行為は商標権侵害とならないのです。
では、全ての商品・サービスについて商標登録をした場合はどうでしょう?(ちなみに、出願時の特許印紙代だけで40万円近くかかります。)
この場合でも、“商標として”「ABC」を使用していなければ商標権侵害となりません。商標権侵害とならなければ、その使用を差し止めることはできません。
つまり、商標登録された「言葉」であっても、その「言葉」の一切の使用を禁じることはできないのです。
「メンタリスト」が商標登録されるとどうなるの?
そもそも「メンタリスト」が商標登録されるか否かという問題がありますが、ここでは仮に登録された場合について考えてみましょう。
正確には「メンタリスト(MENTALIST)」という形で出願されています。
果たして、これが商標登録されたらDaiGoさんはメンタリストとしてテレビ出演できなくなるのでしょうか?
賢明な皆様ならもうお分かりですね。
そうです!「メンタリスト(MENTALIST)」がどの商品・サービスについて権利を要求しているかを確かめればよいのです。
「メンタリスト(MENTALIST)」は、
・(第9類)録画済みDVD・ビデオテープ・ビデオディスク及びCD-ROM、電子出版物
・(第16類)印刷物、雑誌、新聞
を指定商品として、出願されているようです。
DaiGoさんはテレビ番組でDVDや新聞などを販売しているわけではありませんから、彼がテレビで行うパフォーマンスが「メンタリスト(MENTALIST)」の商標権侵害とはならないことがわかりますね。
商標権侵害とならない以上、パフォーマンスを行う上で、「メンタリスト」を名乗れなくなることはありません。
では、DaiGoさんは「メンタリスト」の文字を記載したDVDを販売できなくなるんでしょうか。
「当たり前だろ!」という声が聞こえてきます。
でも、そう単純じゃないんです。
井上陽水さんが巻き込まれた事件をみてください。
判例解説が目的ではないので、単純化して説明します。
原告は、指定商品を「レコード」とする登録商標「UNDER THE SUN」の商標権者です。
被告は、「UNDER THE SUN」をCDアルバムのタイトルとして付して、そのCDを製造・販売していました。このCDは「レコード」に該当します。
原告は、被告の行為は商標権侵害に当たるとして訴えました。
被告が登録商標をその指定商品に許可なく使用したわけですから、原告(商標権者)が商標権侵害を主張するのはもっともだと思いますか?
ポイントは「CDアルバムのタイトルとして付して」です。
裁判所は以下のように判断しました(注:筆者修正箇所あり)。
第三者が登録商標を指定商品に使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されている場合には、登録商標の本質的機能(出所表示機能、自他商品識別機能)は何ら妨げられていないのであるから、商標権侵害を認めることはできない。
本件CDに使用されている「UNDER THE SUN」は、本件CDに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず、本件CDの出所たる製造・発売元を表示するものではなく、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されているものと認められる。よって、被告が本件CDに被告標章を使用した行為は、原告の商標権を侵害するものとは認められない。
つまり、登録商標が指定商品に表記されていれば、その全てが商標権侵害となるわけではなく、あくまで“商標(識別標識)として”使用されている場合に商標権侵害となることが読み取れます。
そうすると、「メンタリスト」の文字を記載したDVDが一切販売できなくなるなんてことはなさそうですね。
もちろん、DVDの商標(識別標識)として「メンタリスト」を使用すれば、「メンタリスト(MENTALIST)」に類似する商標の使用となるので、注意が必要です。
「メンタリスト藏本天外」も出願されているみたいだけど?
こちらは、
(第41類)技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、電子出版物の提供、図書及び記録の供覧、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供、図書の貸与、レコード又は録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、写真の撮影
が指定役務とされています。
「メンタリスト藏本天外」が商標登録された場合、上記の指定役務に該当するサービス(役務)について「メンタリスト藏本天外」を商標として使用すれば、当然商標権侵害となります。
もっとも、出願されたのは「メンタリスト藏本天外」であり、登録商標となり得るのも「メンタリスト藏本天外」です。
つまり、(第41類)について「メンタリスト」という文字に商標権が認められるわけではないのです。
「メンタリスト藏本天外」が商標登録されたからといって、例えば「メンタリスト」を商標として「知識の教授」というサービスを提供している者に対して商標権侵害を主張できるかは大いに疑問です。
「メンタリスト藏本天外」の出願時に「メンタリスト」が造語であると判断されるとは考えにくく、「メンタリスト」のみを使用している者に対しても権利が及ぶとするのは妥当でないと思われます。
本件から得られる教訓
「一般社団法人 日本メンタリスト協会」が出願した商標が登録されると、直ちにDaiGoさんが「メンタリスト」を名乗れなくなったり、「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」が放送できなくなるということにはならないかと思います。
ただし、やっかいなことにはなるでしょう。
こういったトラブルに巻き込まれないためには、できればビジネスを始める前に商標を出願し、商標権を取得することが有効です。
DaiGoさんが所属している「CALL3(スリーコール)」は、「メンタリスト」は普通名称であり商標登録の対象とならないと考え、出願する必要はないと考えたのかもしれません。
しかしながら、普通名称であるか否か微妙な言葉については商標登録出願をしてみるのが賢明といえます。
商標登録が認められれば言うことはありません。
また、普通名称であることを理由に商標登録が認められなかった場合は、自分もその言葉を独占できないが、同じように誰も独占できないことを確かめられたことになります(後から同じ商標を同じ指定商品・役務について他人が出願しても登録されることはほぼありません)。
先に商標登録出願をしておけば、今回のような騒動に巻き込まれないか、巻き込まれたとしても動揺しないで済みます。
安心してビジネスを行うには商標を無視できないことがわかるニュースでしたね。
それでは今回はこのへんで。