北海道の人気菓子「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓(札幌市、島田俊平社長)は28日、吉本興業と子会社のよしもとクリエイティブ・エージェンシーなどを札幌地裁に提訴したと発表した。吉本興業子会社などが販売する土産菓子「面白い恋人」が石屋製菓の「白い恋人」の商標権を侵害しているとし、販売差し止めなどを求めた。
「面白い恋人」は吉本興業子会社が2010年7月に発売したみたらし味のゴーフレット。JR新大阪駅などの土産店で人気となっている。
(日本経済新聞 2011/11/28 14:07 配信)
iRify特許事務所 所長の加藤です。
11月ももう終わりです。今年もあと1ヶ月になりました。冬は、クリスマスや正月などイベントが続きますが、今回はそんな12月を連想する白い恋人に関するニュースについてお送りします。
商標権の侵害か否かの争点は商標の類否
弊所には大阪出身のスタッフがおり、何度かこの「面白い恋人」を土産物として買ってきてくれていただけに、注目してしまいました。なんとなくギリギリのラインを攻めている感じが吉本らしくもあります。吉本側のお菓子は、みたらし味のゴーフレットで、それなりに美味しかったのを覚えております。
一方、北海道の石屋製菓側のお菓子は、クッキーにホワイトチョコを挟んだラングドシャーで、これもとても美味しいのです。このようにお菓子自体は形状から味まで全く異なりますが、商標法的に商品の類否判断を行うと、どちらもお菓子にカテゴライズされているので、商品同士は類似となります。ここに疑義はないでしょうから、商標権の侵害か否かの争点は商標の類否となります。
商標の類否は3点の要素から総合的に判断
商標の類否は、見た目、意味合い、音の響きの3つから総合判断します。
見た目(外観)の類否は、包装のデザインはいずれも白色の背景に青色と金色を基調としています。「白い恋人」は雪山がモチーフなのに対し、「面白い恋人」は大阪城が描かれています。文字部においては、「面」の有無が差異となるだけです。
「面白い恋人」はパロディーネタの商品コンセプトからも、なんとなく似ているという域を超えた感がありますね。持っている意味合い(観念)の類否は、恋人を形容する意味が「白い」と「面白い」とで全く異なることから、似ていないという判断になるでしょう。
最後に音の響き(称呼)の類否は、「シロイコイビト」に対して「オモシロイコイビト」です。観念的なつながりから称呼の類否判断するに「オモシロイ」が一つの言葉ですから、差異は「オモ」のみに留まらず、また、聞き分けやすい語頭の「オモ」の有無は大きいと言え、両商標を十分に聞き分けることは可能であると言えます。
そうすると、意味合い、音の響きは似ておらず、似ているのは見た目だけとなりますから、商標侵害の条件である、商標の類否判断において、吉本側は戦える可能性が残されております。
しかしながら「白い恋人」は、2010年度、約72億円の売り上げがあったそうです。この販売売上からもわかる「白い恋人」の著名性が、「白い恋人」の類似範囲を広げ、通常では非類似の商標も類似と見なされることとなります。裁判では、商標の類似判断における著名性の重み付けが焦点になるでしょう。
商標権の取得が、訴訟リスクを下げる防波堤
吉本側の「面白い恋人」は、有名な「白い恋人」の便乗商品として話題になりました。石屋製菓の著名度を利用した吉本側の「面白い恋人」が話題になることで、元の石屋製菓の「白い恋人」も更に売上が伸びた場合、吉本側は良き話題提供者としてWIN-WINの関係でいられたのでしょう。
しかし、北海道の石屋製菓側には、「間違って買ってしまった」との苦情が何件かあったという話や、ブランドイメージの希釈化(ダイリューション)・汚染化(ポリューション)などの害も出ているであろうことから、長年築き上げた信用や名声に便乗し不当な利益を得ようとしているとしているとして今回の提訴に踏み切ったのでしょう。
ちなみに、北海道の石屋製菓は、「白い恋人」関連の商標を25件も取得しております。一方、吉本側の「面白い恋人」は出願が1件のみで、その1件も拒絶されております。吉本側が拒絶査定不服審判の請求を断念した9月中旬のタイミングで、石屋製菓側が訴訟に動いたのがわかります。
ここからも商標権を取得しておくことが、訴訟リスクを下げる防波堤になることがわかります。自社で販売する商品や提供するサービスの中で育てていきたいと考えている商標があれば商標登録しておきましょう。「面白い恋人」のように大ヒットして、いざという時に商標権が取得できないという事態は避けたいところです。
尚、商魂と笑いを貫く吉本側が商標を変更するなら「面白い変人(おもしろいへんじん)」、勝負するなら「訴えられた恋人」にしてほしいという話もネット上にありました。今後、吉本側の対応を見守りたいと思います。