TPPとは、環太平洋戦略経済連携協定( Trans-Pacific Partnership )からとった略称です。
TPPは、ざっくり言うと自由貿易協定(FTA)と異なり、物だけでなくサービス、知的財産、人の移動なども含む包括的な自由化をめざしている協定です。
よって、この協定を締結すると、10年以内に原則すべての品目の関税がゼロとなります。
このTPP参加により、農業が大打撃を受ける、輸入食品の規制緩和が進み食の安全が脅かされる、医療の質低下や患者の負担が増加する、薬価がアップする、などいろいろと言われておりますが、ここでは知的財産の切り口からTPPを見てみたいと思います。
TPP締結による知的財産権への影響
経済・金融などが急速に悪化している米国が、今回のTPPにどのような意図をもって挑んでいるかは、インターネット上で多く方が語られているので、そちらをご覧いただければと思います。
当記事では、TPP参加による知的財産権への影響に的を絞ってお送りしようと思いますが、知財についても他の産業で言われているように米国の影響が色濃く反映されたものとなります。
まず、米国は参加国に対しTRIPS協定よりも高い水準で知的財産権の保護強化を図ることを要求するものと思われます。
知的財産権の使用料の増加
特許では、米国が基礎研究の大半のパテントを保有しております。TPP締結の保護強化推進により知的財産権の拡大解釈から、応用技術中心の日本メーカーに対して、これまで以上に知的財産権の使用料を請求してくることが予想されます。
著作権の保護期間の延長により更に赤字拡大
具体的には、著作権について「死後70年」、隣接権についてはEUより更に25年長い「発行後95年」に延ばしてください、というような内容になるでしょう。
世界の著作権では死後70年に延長した国はまだ半数にも至りませんが、TPP交渉参加国では既に70年が多数派です。よって、交渉に加わればまず延長は濃厚であり、そうなると現在、国内で安価に入手できているコンテンツが手に入りにくくなることが考えられます。
米国は年間10兆円も著作権で収入を得ておりますが、日本はクールジャパンと言われている割に、著作権で年間5,000億円の赤字を出しており、米国や海外へ支払っている金額の方が多いのが現状です。
更に真正品の並行輸入について著作権者にコントロール権を与えよという内容が盛り込まれた場合、日本の赤字は更に膨らむでしょう。ゆえに著作権の管理方法や活用方法を米国的にするなど見直しが必要となるでしょう。
著作権侵害が非親告罪化による著作権者の意志に従わない処罰の増加
現在、通常の著作権侵害には「最高で懲役10年又は1000万円以下の罰金」などの罰則がありますが、これは親告罪です。この親告罪が、非親告罪化します。
今までは、警察が海賊版のアップや販売を摘発しても、著作権者などの被害者が告訴しない場合、起訴したり処罰はできませんでしたが、非親告罪化すると著作権者の意志に関係なく起訴したり処罰したりできるようになります。
米国などの外圧から、日本国がこれまでになく著作権保護を推進する可能性があります。これには賛成意見と反対意見の両方があります。
知財訴訟の激増化
著作権侵害の損害賠償が法定損害賠償になります。法定損害賠償とは、実損害の有無の証明がなくても、裁判所が(ペナルティ的な要素を含んだ)賠償金額を決められる制度です。
米国では、故意の侵害の場合「1作品」あたり750ドル~15万ドル(日本円にすると1,000万円強)もの損害賠償が求められています。
日本において、これまでの損害賠償は、著作権侵害で権利者などがこうむった実損害分しか賠償を求められませんでした。しかし、TPP参加により法定損害賠償が導入されれば、善かれ悪しかれ知財訴訟が多い米国と同じように、日本でも知財訴訟が激増する可能性があります。
関税自主権の完全な回復から100周年
日本は、1911年にようやく米国を始めとする他の列強と日米通商航海条約等の平等条約を締結し、関税自主権の完全な回復が現実化させた経緯がありますが、あれからちょうど100年目の今年、自ら関税をゼロとする全面放棄協定に参加しようとする日本はどこに向かうのでしょうか?推移を見守りたいと思います。