「新宿サイダー」発売 地元商店街、地域通貨と連携
新宿区商店街連合会は人気アニメ「鉄腕アトム」をモチーフにした炭酸飲料「十万馬力新宿サイダー」を発売した。区内の飲食店や酒屋などで限定して売る。
空き瓶を販売店に返却すると区内の地域通貨がもらえる仕組み。サイダーを区の新たな名物に育てるとともに、地元商店街での消費拡大を促す。
2012/1/18 23:32 【日本経済新聞Web刊】
あの手塚プロダクションの「鉄腕アトム」と「新宿区商店街連合会」が、おもしろいコラボレーションを実現しました。新宿区内限定でサイダーを発売するというのです。
―びんにアトムが空を飛ぶ姿をあしらった、その名も「十万馬力新宿サイダー」。
知的財産を地域の活性化と環境保全にうまく活かした意欲的な取り組みですので、「商標登録NOW」でも特別に取り上げたいと思います。
「十万馬力新宿サイダー」ってどんなサイダー?
飲んだらアトムみたいに十万馬力!…には、なりません(笑)。
このサイダーは新宿区商店街連合会(区商連、会長:大室新吉)が1月13日に発売したもので、区内限定で販売されています。びんには手塚プロダクションが手がけた人気アニメ「鉄腕アトム」のイラストが施されていて、ぱっと目に付くビジュアルです。
徳島県産のスダチ果汁を使っていて、1本150円(220ml・税込み)。大人でも楽しめるフレーバーで、お酒を割るのに適しているとのこと。
「新宿サイダー」誕生―生みの親は“科学省”じゃなくって“環境省”
鉄腕アトムが生まれたのは“科学省”ですが、アトムのイラストを載せた「新宿サイダー」の誕生のきっかけを作ったのは“環境省”でした。
- ◆「びんリユースシステム構築に向けた実証事業」
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これは環境省が進める実験的な事業で、びんという資源を繰り返し使って大切に活用していくことを目指します、といった趣旨のものです。
「十万馬力新宿サイダー」はこの事業で採択されて、開発が進められてきました。販売 ⇒ 消費 ⇒ 回収 ⇒ 洗浄 ⇒ そしてまた販売。
何度も何度も再利用することで、ごみとCO2を削減していきます。この資源循環型のエコなサイクルを作っていくびんを「リユースびん」もしくは「リターナブルびん」といいます。
- ◆「びん再使用ネットワーク」が開発を後押し
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「びん再使用ネットワーク」は“パルシステム”、“生活クラブ”など5つの生協団体からなるネットワークで、この「リユースびん」を有効的に活用しています。
びん容器の規格を統一することで、複数の生産者間での、びんの再利用を促しており、また「日本ガラスびん協会」のRマークを刻印した開放びんとして、一般市場にもリターナブル(回収再使用)社会を呼びかけています。
この「びん再使用ネットワーク」が、リユースびんの普及活動として環境省からの助成を受け、この新宿サイダーの開発を後押ししました。
「日本ガラスびん協会」のRマークって?
先に書いた「日本ガラスびん協会」のRマークについて、少し解説しましょう。
協会のホームページによれば、このRマークの趣旨・目的は以下の2点です。
- Rマークをつけることで、「日本ガラスびん協会」が意匠権を持つリターナブルびんであることを簡単に識別させる。
- Rマークがついていれば、規格が統一されている“しるし”なので、空きびんの回収に関わる消費者、行政、事業者などが効率的にリユースのサイクルを回すことができる。
そして、協会から事前に許可を得て製造したリターナブルびんにのみ、このマークを使うことができる、というわけです。このマークがつけられた統一規格のびんを「Rびん」といいます。
同じ規格のびんをいろいろな商品に使い回せば、リユースの効率は飛躍的にアップするんですね。さらに、協会はこの「Rびん」を多くの団体が使えるように、デザイン(設計図)を広く開放しています。
もちろん、「十万馬力新宿サイダー」にも、このRマークがほどこされています。
地域通貨と連携―地域の活性化にも貢献
この「新宿サイダー」のもうひとつの特徴は、地域にターゲットを絞っているということです。名前を見ればよくわかりますね。
びんの消費とリユースを新宿区内の販売店の間で循環させていこうという狙いがあるのです。
そのために、サイダーの空きびんを販売店に返却すると、「アトム通貨」50馬力(50円)がもらえるというシステムを採用。「アトム通貨」とは、平成16年に早稲田・高田馬場地域で生まれた地域通貨です。
知財が地域活性化と環境保全に活用されたよい事例
Rマークがほどこされたびんには信用があります。
このマークがついていれば、環境にやさしいリターナブルびんだと、消費者は簡単に認識することができるのですから。
この信用こそが知的財産の宝です。
今回の「十万馬力新宿サイダー」は、知的財産をうまく活用しながら、地域活性化と環境保全という両輪をうまく回している、とてもよい事例でした。
知的財産は取得して終わり、というものではありません。いかにうまく活用していくかも考えていきたいですね。