最高裁上告棄却 —有名すぎた? 喜多方ラーメン 地域団体商標の登録認められず

「喜多方ラーメン」地域団体商標の登録認めず…最高裁

福島県喜多方市のラーメン店45店でつくる協同組合「蔵のまち喜多方老麺(らーめん)会」が、「喜多方ラーメン」の地域団体商標の登録を認めなかった特許庁の審決の取り消しを求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は、請求を棄却した1審・知財高裁判決を支持し、組合側の上告を退ける決定をした。1月31日付。組合側の敗訴が確定した。

地域名を冠した特産品などに商標権を与える地域団体商標制度は2006年4月にスタートし、「和歌山ラーメン」などは登録されている。知財高裁は10年11月の判決で、「喜多方市内で組合に加入しているラーメン店は半数弱で、全国的に知られる有力店が加入していない」と指摘していた。

2012/2/1 【読売新聞】

喜多方ラーメン

みなさんも一度は食べたことがあるのではないでしょうか?
あっさりスープで太めの平打ち縮れ麺、そう、今回はあの「喜多方ラーメン」の話題をお届けします。

喜多方ラーメンは、札幌ラーメン、博多ラーメンと並んで日本三大ラーメンに数えられることもあるようです。その名前は完全に全国区ですね。

そんな有名な喜多方ラーメンですが、結局、地域団体商標として登録されることはありませんでした。
一方で、今までに「和歌山ラーメン」と「米沢らーめん」は地域団体商標の登録が認められています。

それでは、「喜多方ラーメン」が商標登録に至らなかった原因は、いったいどこにあったのでしょう?
―ポイントは“有名すぎた”??

さて、じっくりと解説していきましょう。

共同組合側の商標出願を特許庁が拒否

2006年、地域ブランドの保護を目的とした「地域団体商標制度」が創設されました。
そこで、福島県喜多方市のラーメン協同組合「蔵のまち喜多方老麺(らーめん)会」は、同じ年にさっそく商標登録を出願。

ところが、その出願を特許庁は認めてくれませんでした。
不服とした共同組合側は、2008年5月に拒絶査定不服審判を請求。
ようするに、特許庁が行った審決が納得できないということで、訴訟を起こしたんですね。
こういった訴訟を「審決取消訴訟」といいます。

争いは法廷へ

裁判所合同庁舎(知的財産高等裁判所)

この「審決取消訴訟」については知的財産高等裁判所(知財高裁)が第一審となります。

ちなみに、知的財産高等裁判所というのは、東京高等裁判所の「特別な支部」で、名前の通り知財に関する事件を専門に受け持ちます。
今回のような、特許庁に対して起こされた訴訟に関しては、知財高裁が全国の事件をすべて取り扱っています。

その知財高裁の判決は2010年11月に出されました。
結果はというと、「特許庁の審決は妥当」と判断、請求は棄却する、というもの。
―つまり、「喜多方ラーメン」は地域団体商標には登録できません、という判断を下されてしまったのです。

それに対して、組合側は上告。
最高裁で争う姿勢を見せていましたが、それも今回、最高裁に上告を退けられて、敗訴が決まりました。

「喜多方ラーメン」…なにがダメなの?

今回の一連の争いの中で組合側は、特許庁・知財高裁・最高裁から、一貫して「喜多方ラーメン」の名称を地域団体商標として認められない、という判断を下されてしまいました。

その根拠はいったい何なのでしょう?

知財高裁は判決で、「『喜多方ラーメン』の名称が、原告の組合とその加盟店だけの商品、サービスとして広く認識されているとはいえない」と指摘しています。

つまり、消費者らが「喜多方ラーメン=原告組合の加入店が提供するラーメン」とは認識していない、と言っているのですね。

喜多方市以外の地域にだって「喜多方ラーメン」のお店はありますよね。
そのお店は、たとえ組合に加入していなかったとしても、今まで“店舗運営”というかたちで「喜多方ラーメン」ブランドの育成に寄与してきたはずなのです。

◆「喜多方ラーメン」と聞いて、あなたは何を想像しますか?
A.「ああ、喜多方市で食べれる、あの地域独特のラーメンでしょ」
B.「あの、あっさりとしたスープで縮れ麺のラーメンだよね」

もし、Bを連想する人が多いとすると、やはり「喜多方ラーメン」が地域団体商標として登録されるのは難しそうです。

「喜多方ラーメン」と聞いて、“喜多方市という地域”や“組合との結び付き”よりも先に、“そのラーメンそのもの”が思い浮かべられるということは、もはや一地域とは離れて、「喜多方ラーメン」という名称によって、すでにブランドが確立されているということに他ならないからです。

商標の希釈化(きしゃくか)、そして普通名詞化

普通名詞化した「ホッチキス」

商標って“希釈化”するんです。
有名な商標について、多くの人がいろいろな商品やサービスに使うことで、その商標の機能が弱められてしまうことがあります。

ある商品やサービスの商標として強く刻み込まれた消費者の認識が、他の商品やサービスに拡散されて薄められること―そういった商標機能の低下を希釈化(ダイリューション)と呼んでいます。

ちょっとわかりにくいですね。例を挙げてみましょう。
たとえば、ホッチキスを思い浮かべてみてください。ぱちりと「コ」の字の針を通して紙を綴じる、あの道具ですね。
あの商品、普通名詞だと思っていませんか? はさみや鉛筆などと同じ、文房具の種類としての呼び名だと。

でも、実はホッチキスって、株式会社イトーキの登録商標、つまり、個別の商品名だったんです。
しかし、ホッチキスという商品があまりにも広く一般的に使われるようになって、その商標としての機能が薄まって、普通名詞化してしまったというわけです。

普通名詞化した登録商標としては、他にはエスカレーターなどが有名ですね。

さて、「喜多方ラーメン」の話に戻りましょう。
この言葉も、普通名詞化とまでは言わないまでも、それでも、だいぶ一般化が進んでいるように思えます。

それは多くの人に広まっている証拠と言えますが、そういう点で、今回の地域団体商標のコンセプトにはそぐわないと、判断されてしまったのでしょう。

地域団体商標のコンセプトは“地域ブランドの保護・育成”

地域団体商標の目的は、地域ブランドを適切に保護し、その育成の手助けをしていくことにあります。
しかし、今回の「喜多方ラーメン」は、すでに全国区のブランドとして消費者に広く認知されていました。

このような場合に、組合側の地域団体商標権を認めてしまうとすると、全国の多くの非加盟店が排除されることにもつながります。
そうなったら消費者も混乱するでしょうし、逆にブランド力の低下をまねく恐れさえあるように思えます。

―「喜多方ラーメン」、“有名すぎて”地域団体商標の登録ならず。

地域団体商標のあり方、目的をあらためて考えさせてくれる良い事例でしたね。

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