韓国“笑笑”商標侵害、日本側の主張認める
日本で居酒屋チェーン「笑笑(わらわら)」を経営する会社が、韓国の居酒屋チェーンに商標を侵害されたとして無効とするよう求めていた問題で、韓国の特許庁は7日までに、日本側の主張を認める判断を下した。
2012/2/7 配信【日本テレビ系(NNN)】
以前の『商標NOW』でも述べてきましたが、現在、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)など、貿易自由化への是非が問われています。
物品の関税や通商上のさまざまな障害を取り除くことを目指したこの貿易自由化の流れの中では、国際的な競争がより激しくなることが予想されます。
競争といっても、攻めるだけでは生き残れません。自身の保有する権利をしっかりと守っていくことも大切です。
その権利を守る強力な“盾”になりうるものが登録商標です。自由な(それゆえに過酷な)経済競争の中で、登録商標という資産を軽んじることは、錆びた盾で、もっと言えば裸で戦場に身を投じるに等しい行為と言えます。
海外における商標登録の大切さについて、今回の「笑笑」の件から学んでいきましょう。
“笑笑”商標権侵害訴訟―騒動の経緯
被告の韓国業者は、韓国で2001年に営業を開始しており、2009年には「WARAWARA」の名前で商標登録を果たしています。
日本式居酒屋のフランチャイズ経営で、韓国で80店舗以上を展開するまでに成長。最近では国内の「100大フランチャイズ」に選ばれるほどに高い人気を集めていたといいます。
しかし、日本の居酒屋チェーン「笑笑」を経営するモンテローザが、2010年1月、特許審判院(大韓民国特許庁)に対して、その韓国業者がもつ登録商標の無効審判を請求。
日本のモンテローザが韓国の業者に、商標権を侵害しているとして、「WARAWARA」と銘打った看板などを使わないように申し立てたんですね。
モンテローザの主張の内容は、
―「笑笑」を訓読みすると、「WARAWARA」と同じ発音になり、韓国業者側の登録商標にも日本語(「手作料理酒家」とあります)が併記されているため商標権の侵害にあたる、
といったものでした。
それに対して、韓国の特許審判院は、モンテローザ側の訴えを認めると判断。
韓国業者はそれを不服として、「特許裁判所」に判断を取り消すよう求める裁判を起こしていましたが、2月7日までに裁判所は、この訴えを退ける判決を下しました。
判決理由については、「韓国内外の消費者によく知られている商標と同一または似た商標で、不当な利益を得ようとしたり、不正な目的を持って使用したりしていた」としています。
海外の商標権トラブル―お隣・韓国の商標登録事情
最近、韓国でも商標登録におけるトラブルが増えてきているといいます。
韓国の大法院(日本の最高裁に相当)によると、特許訴訟の件数について、2001年では728件だったところが、2008年には1449件にまで増加。これは過去最高記録で、ここ3年間でも約1000件を超える訴訟がコンスタントに起きているとのことです。
◆韓国の過去の商標権にまつわる騒動あれこれ
- 【スターバックス】
- 2005年、スターバックスコーヒーが韓国企業スタープレヤを提訴。
韓国側の商標(“女神”が描かれています)が、スターバックスの商標(こちらは“セイレーン”)に似ているとして、特許法院に取消を求めましたが、類似にあたらないと判断されて訴えは棄却。
同様に、2006年にはスタープレヤの登録商標「STARPREYA」が「STAR BUCKS」に似ていると特許法院に提訴しましたが、これも棄却されています。
- 【ハイチュウ】
- 2004年、森永製菓のハイチュウによく似た商品「マイチュウ」がクラウン製菓より発売。
森永製菓が商標権侵害差し止めを求めソウル地裁に訴訟を起こしましたが、2005年6月に訴えは棄却されています。
森永製菓のハイチュウは1975年に発売されたチューイングキャンディ。
「マイチュウ」はサイズや食感、包装など多くの点で「ハイチュウ」との類似性が指摘されていましたが、ソウル地裁からは商品名の「チュウ」以外は似ていないと判断されてしまいました。
森永製菓が、韓国国内での「ハイチュウ」の商標を登録していなかったのも敗因のひとつに挙げられます。
- 【その他にもこんなものが】
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- 「ガンダム」の商標登録の出願が、「ガンダムはロボットの普通名詞である」という理由で拒絶されたり(最終的には商標登録は認められています)…
- 「ヤクルト」に良く似た塩化ビニール容器の乳酸菌飲料「ヨグルトゥ」が市場に出回っていたり…
有名な商標トラブルばかりを紹介してみましたが、これでもほんの一部なんですよ!
海外の商標登録には要注意―ローカルリスクは覚悟して事前の権利武装を!
今回の「笑笑」の商標権侵害事件を受けて、2月7日付の朝鮮日報では次のように問題点を捉えています。
―問題は敗訴による打撃だ。長年営業を続けようやく世間に認められるようになった矢先に商標権侵害の審判を下され、商標を変更した場合、それまでの努力が水の泡となる。
それも確かに大きな問題には違いありませんが、その前に、先行商標の事前調査を行い、もし先行商標があった場合には、その権利をちゃんと尊重する―そういった考え方・倫理観を持つことのほうが大切だと思います。
商標登録を初めとした「ブランド」の育成には、多くの時間と労力とお金がかかります。そうした価値のあるブランドイメージに、“ただ乗り”していると捉えられかねないような行為は、やはり慎むべきでしょう。
もちろん、商標など知的財産権に対して、国によってさまざまな捉え方があるのは事実です。
そこで、世界を相手に展開していこうと考えるときは、まず自国の常識が世界の常識ではないことを前提に、保護したい商標権の範囲をしっかりと見定め、広く漏れなく権利を取得していくことが大切です。
商標権などの産業財産権は、各国に登録出願をし、審査を経て初めて権利化されます。
商標権の効力は、あくまでもその商標を登録した国の領域内に限られ、その領域を越えて他の国にまで及ぶものではないのです。
ある程度のローカルリスクは覚悟の上で、いざ模倣品被害などを受けたときのためにも、事前の権利武装をしておくことが大切なんですね。
これからの貿易自由化、国際化の流れを受けて、もう一度、商標を初めとした知的財産について、じっくりと考えを巡らせてみるのも有意義なことではないでしょうか。