「iPad商標権侵害」訴訟 アップルに賠償命令

「iPad商標権侵害」Appleに賠償命令の可能性も 中国裁判所

米Apple社は『iPad』の商標権をめぐる訴訟に巻き込まれており、この係争は、最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏と同社にとって不利な形勢になりつつある。

中国の裁判所がApple社に有利な判決を下さなかった場合、同社は3,800万ドルから16億ドルを支払わなくてはならなくなる可能性がある。

2012/2/8 【MSN産経ニュース】

アップルのロゴ

『商標登録NOW』でも以前に紹介した、「iPad(アイパッド)」の商標権をめぐるトラブルに続報が入りました。
見出しはかなりショッキングで、アップルが中国の裁判所から16億ドル(約1200億円)の賠償を命じられるかもしれない、というものです。

アップルが中国で商標登録・譲渡の際に陥った落とし穴が、いかに深いものだったか、この金額を見るだけでもうかがえますね。

「iPad」という世界規模のヒット商品を生み出したアップルが、中国国内で自社製品の名称を使ったら商標権侵害と見なされてしまう??

―ちょっと聞いただけでは首をひねってしまうような複雑な事例ですよね。
復習もかねてもう一度、事件の流れを眺めつつ、続報をチェックしていきましょう。

「iPad商標権侵害」訴訟―騒動の経緯を総復習 その1―「iPad」誕生前夜

唯冠国際控股(プロビュー・インターナショナル)

さて、この商標権侵害事件の発端はというと、2000年にまでさかのぼります。
その頃にはもちろん、まだ私たちがよく知る“あの”タブレット端末「iPad」はこの世に存在すらしていませんでした。

そんな中、当時世界第4位のディスプレイメーカー・唯冠国際控股(英名:プロビュー・インターナショナル・ホールディングス)の台湾における子会社・唯冠台湾が、世界各地で「iPad」の名称にて商標を登録していたのです。

今後、自社のブランドとして「iPad」という製品を育てる計画でもあったのでしょうか?
商品として販売された実績はないようですが、2000年の時点で唯冠台湾は、世界各地で「iPad」の商標を出願、登録させています。

ところが、これがポイントなのですが、唯冠台湾がこのとき商標登録したのは“中国本土を除く”世界の各地だった、ということです。

―このことが、後々、アップルが陥る大きな落とし穴になりました。

続いて2001年に、唯冠国際の中国本土・深セン市にある子会社・唯冠科技(以下、唯冠深セン)が、中国国内にて「iPad」の名称で商標を登録させています。

◆ポイントを整理しましょう
  • 2000年に唯冠台湾が“中国本土を除く”世界各地で「iPad」の商標を登録。
  • 2001年に唯冠深センが“中国本土”で「iPad」の商標を登録。
  • 唯冠台湾と唯冠深センは、親会社は同じだが、独立した別個の会社。
  • アップルが「iPad」という製品を発表する前に、両社とも「iPad」の商標を登録していた。

これらのポイントは、裁判の争点に深く関わるところなので、よく覚えておいてくださいね。

「iPad商標権侵害」訴訟―騒動の経緯を総復習 その2―第1回訴訟

北京のアップルストア

2006年になり、アップルが「iPad」の発売を計画しました。
そして、その時に初めてアップルは、唯冠台湾によって「iPad」の商標が世界各地ですでに登録されているという事実に気が付いたのです。

アップルとしては「iPad」の商標はゆずれません。
そこで同じ年に、アップルは商標権の撤回を求め、イギリスで唯冠台湾を起訴。
アップルの主張は「唯冠台湾は商標を登録するだけしておいて、実際には製品を開発せずに放置している」というものでした。

しかし、結果はアップルの敗訴。
「iPad」の商標権を獲得するために、唯冠台湾に対して3万5000ポンド(約420万円)を支払うことになりました。
これが第1回目の訴訟です。

しかし、ふと考えてしまいます。
“あの”アップルの商標ですよ。将来的にビックブランドになることが約束されている商標を手放す金額としては、420万円というのはいかにも安すぎやしないでしょうか。
アップルからすれば格安、タダ同然の金額です。

実は、2006年に唯冠台湾から「iPad」の商標権を譲り受ける際、取引に関心を集めないために、アップルはイギリスのIP Application Development社(IP社)というダミー会社を交渉の矢面に立たせていたといいます。

だから、唯冠台湾としては、「iPad」という登録商標とアップルとの関連に気が付かなかったのではないでしょうか。

唯冠グループはかつて液晶ディスプレイの製造大手として知られていましたが、現在ではすっかり経営が悪化、破綻状態にあるといいます。
当時、唯冠側がIP社の後ろにアップルの影を見ていたならば、こんな安い金額で「iPad」の商標権を譲ることはなかったのではないかと思います。

そして、この当時の遺恨が、今回のとんでもない商標権売却額の要求につながっているのでは、とも考えてしまうのです。

ともあれ2006年当時、アップル側としては、唯冠台湾から世界各地の「iPad」の商標権を譲り受けることができ、やれやれひと安心と胸をなで下ろしていたことでしょう。

ところが……。

「iPad商標権侵害」訴訟―騒動の経緯を総復習 その3―第2回訴訟

タブレット端末「iPad」

さて、ここでさっき挙げたポイントを思い出してみてください。

アップルが「iPod」の商標権を譲り受けたのは、唯冠台湾からでした。
つまり、唯冠台湾が譲った商標権の効力の及ぶ範囲には、中国本土は含まれていないというわけです(唯冠側の主張)。

そういった、中国本土での「iPad」の商標権が移譲されていない(あるいは、移譲されたかあやしい)段階で、アップルは新製品のタブレット端末に「iPad」の商標を付け、中国本土の市場にて、その販売を開始したのです。

それに対して、中国本土の唯冠深センは、2010年10月に、アップルを提訴する準備を始め、そして、ついに2011年、商標権を侵害したとして訴訟を起こしました。

結果、12月に行われた広東省の深セン市中級法院(一審)では、アップルは敗訴。
アップルはすぐに広東省高級人民法院に上訴し、現在審理中だということですが、「中国本土でも『iPad』の商標権を保有している」というアップルの主張が認められる見通しは少なそうです。

中国での商標権事情―不正商標登録、どう対処する?

今回のような商標権をめぐる訴訟事例が大きくクローズアップされたことにより、中国における商標登録事情に、今、大きな注目が集まっています。

中国に進出しビジネスを始めようとすると、“不正商標登録”の洗礼を浴びるケースがよく見受けらます。
“不正商標登録”というのは、海外の企業などの商標が、まったく関係のない第三者によって、知らない間に中国国内で先に出願・登録されてしまうことをいいます。

もし、自社のサービスや製品が不正に商標登録されていた時には、いったいどう対処すればよいのでしょうか。

もちろん今回のアップルと唯冠のように法的な手段に訴えて、商標権の取消を求めるというのも一手ですが、訴訟には多くのお金や時間、労力がかかります。
それで商標を取り戻せればいいですが、場合によっては取り戻せずに終わることだってあるのです。

状況をよく見て、時には「動かない」ことも選択肢に入れる必要があるでしょう。
また、「商標権者からお金を払うなどして譲り受ける」ということも検討しなければいけないかもしれません。

不正な手段で登録を果たした商標権者に対して、お金を払ってその権利を譲り受けるなどというのは、やはり癪(しゃく)なことではありますが、それでもビジネス上の戦略としては、考慮に入れなければならないことなのです。
その際には、特許事務所などの専門家とよく相談したうえで、しっかりとした対策をとって事態に備えたいものですね。

今回の「iPad商標権侵害」訴訟では、色々なことを考えさせられました。
大きく報道された事件だけに、今後の司法の判断が注目されます。

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