アイコン・操作画面・壁紙など ウェブデザインにも意匠権
30日の産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)の知的財産政策部会で議論に着手し、2012年度内に結論を出す。対象はパソコン画面に表示される検索エンジンなどのウェブ画面や基本ソフト(OS)の操作画面・ゲーム画面、壁紙やアイコンなどのデザイン。
欧米や韓国などでは意匠権を認めるのが一般的だが、日本では著作権が認められる可能性がある程度だった。
2012/3/27 【日本経済新聞】
こんにちは。iRify特許事務所・所長弁理士の加藤です。
さて、今回の『商標NOW』は前回の続きをお届けします。まずは前編の復習をさらっと。
- 「意匠」とは、「工業デザイン」のことで、「意匠権」というのは、そういった「工業デザイン」を保護するための強い権利のことでした。
- 電子機器分野が発展を遂げる中、「画像デザイン」の保護のニーズが表面化。それを受けて、2007年の意匠法の保護改正によって「画像デザイン」も意匠権の保護対象に加えられるようになりました。
- ただし、その保護の対象は、あくまでも「物品の操作に使用される画面デザイン」に限るというものでした。
- 今後、日本と海外の間で相互の意匠出願が増えていくと予想される中で、国際的な意匠出願制度を定めた「ヘーグ協定」(世界知的所有権機関[WIPO]が管理)に加盟したいところですが、今のところ日本はそれを果たせてはいないのでした。
さて、この4点を軽く押さえた上で、後編を一緒に読み進めていきましょう。
意匠権に関する日本と諸外国の解釈の違い
繰り返しになりますが、日本は国際的な意匠出願制度を定めた「ヘーグ協定」に、いまだ加盟を果たしていません。
この「意匠の国際登録に関するヘーグ協定」は、特許における「特許協力条約(PCT)」、商標における「マドリッド協定議定書(プロトコル)」に相当するものです。
国際事務局に一通の願書を提出するだけで、複数の締約国へ出願したのと同じ効果が得られ、非常に便利です。
―「意匠権による画像デザインの保護」と「ヘーグ協定への加盟」。
ここまで顕在化したニーズがあるにも関わらず、日本が国際的な意匠制度と今まで足並みを揃えられなかった理由とは、いったい何だったのでしょう?
◆日本の意匠制度―いまだ根強い“物品との結合”へのこだわり
その理由は、単刀直入に言って、生真面目すぎる「意匠」の定義づけにあるように思えます。
これも前編の復習になってしまいますが、日本の現行法において、「意匠」とは…
“物品(物品の部品を含む)の形状、模様若(も)しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの”
…と定義されています。
「意匠」として認めるか否かは、あくまでも、“物品”との関連性のあるなしで判断するということですね(①「物品との一体性要件」)。
加えて、2007年の法改正の際に、保護の対象を「画像デザイン」の中でも、「物品の操作に使用されるもの」に限る、とされたこともポイントです(②「機能・操作要件」)。
日本においては、①と②の要件を満たして初めて、その「画像デザイン」が「意匠権」の保護対象であると認められる、ということです。
このことから、日本の意匠制度が、とても強く物品との関連性を求めているということがわかりますね。
◆諸外国の「画像デザイン」保護の現状について
- ①「物品との一体性要件」
-
- 米国
米国では日本と同様に、物品から離れた「画像デザイン」単体では意匠権の保護の対象にはなりませんが、「画像デザイン」が物品に表示されてさえいれば保護の対象になりえます(“操作”に関わらなくてもOKということです)。
- 韓国
韓国の「デザイン」の定義は、日本に近い解釈がなされてはいるものの、現在、法改正が行われているところであり、法改正後にはアイコンなどの「画像デザイン」自体が意匠権の保護を受けられるようになる見込みです。
- 欧州
欧州では「画像デザイン」そのものが製品として意匠権の保護を受けることができ、「物品との一体性」はそもそも求められてはいません。
- 米国
- ②「機能・操作要件」
- 米国・欧州・韓国いずれの国と地域においても、日本が「画像デザイン」に対して課しているような「機能・操作要件」は求められていません。
この現状を見るだけでも、日本の意匠制度が国際基準から遅れをとっていることがわかりますね。
現時点で、米国・欧州・韓国ではすでに、電子計算機(パソコンなど)に表示されるアイコンや壁紙など、“操作”に関わらない「画像デザイン」についても登録例が存在しているのです。
“物品との結び付き”から一歩引いて、欧米・韓国などの国際基準へ同調か
日本の現行の意匠制度において、電子計算機に表示される「画像デザイン」については、あくまでも、物品(その電子計算機)の“部分”と見なされていましたから、物品ごとにその画像デザインを出願・権利化する必要がありました。
さらに、アップデートやバージョンアップ、アプリケーションの追加などによって変更された「画像デザイン」は、そのたびごとに、いちいち保護の対象外になってしまうのです。
これでは、日本の現行の意匠制度が、現在の「画像デザイン」の利用実態に対応しきれていないと言われても仕方がありませんよね。
こういう現状ですから、今回、“物品”を離れたデザイン自体の保護の是非について特許庁で検討が始められたということは、とても評価されるべきことだと思います。
このことについて、もちろん慎重論もあります。
- ―意匠権の保護対象を広く認めることで、ほかの企業と権利問題で抵触する可能性も高まるのではないか。
- ―権利侵害のリスク回避のための意匠登録の費用や、訴訟の際の手間やコストが増えるのではないか。
- ―先行デザインが強力な意匠権を持つことで、ほかのデザインが排除され創作活動が停滞するのではないか。
こういった懸念の声が出るのは、もっともなことですね。
しかし、いずれにせよ、今回の流れは必然的なものだったのではないでしょうか。
ウェブというものが、産業においてなくてはならないものになった現在、ウェブデザインにおける保護対象の明確化は避けては通れない道なのです。
ウェブという観念がなかった時代ならば、意匠は“物理的な物品(モノ)”だけを保護対象としてカバーしていれば問題はなかったのでしょう。
しかし、時代が変われば、モノの観念も変わります。
産業としてウェブが認知されている今、意匠制度もそれに合わせていく必要があるのではないでしょうか。 今後、「意匠」がどのように存在感を増していくか、注目ですね。