キリストがサルに? スペインで自称画家が修復し注目
スペインの小さな教会のキリストを描いたフレスコ画が、世界の注目を浴びている。80代の自称プロ画家という女性が修復を手がけたところ、「毛むくじゃらのサル」(英BBC)に様変わり。悪評が広がる一方で、ネット上では「ゴヤやムンクに匹敵する」と持ち上げる声もある。
問題の絵画は、スペイン北東部のアラゴン州ボルハにあり、地元画家のエリアス・ガルシア・マルティネスが100年以上前に描いたとされる。画家の孫は地元メディアに「絵は完全に破壊された」と嘆いた。
一方、教会から修復を依頼されたと主張するセシリア・ヒメネスさんは「善意でやったことで修復を後悔していない」と反論。ただ今回の騒ぎで寝込んでしまったという。
2012/8/25 【朝日新聞デジタル】
著作権騒動に発展
こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。
前回に続き、著作権に関する話題をお届けします。
この“修復”騒動、ちょっとした話題となったのでご存じの方も多いのでは。所長の加藤は大爆笑したそうです。
これだけであれば微笑ましい話として済んだかもしれませんが、著作権騒動に発展してしまいました。
良くも悪くも話題となったセシリアさんの修復画。一目見たいと人々が教会に殺到。教会は9月15日から入場料を取るようになり、数日間で数十万円を稼いだといいます。セシリアさんと家族はその収入から著作権料を受け取る権利があると主張し、弁護士を雇って訴訟の準備をしているようです。
修復された絵画は著作物になるか
日本で著作権が認められるには、その対象が「著作物」である必要があります。
「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術又は音楽の範囲に属するものをいう、とされています(著作権法2条1項1号)。
絵画の修復で問題となるのは、「創作的に」という部分です。
他人の作品の「模倣品」(創作が加わっていないもの)は著作物となりません。
修復された絵画は、既存の著作物を利用して作出されたものですから、独自の創作活動の成果とはいえず、通常は著作物にはならないと考えられます。
セシリアさんに著作権は認められるか
今回の騒動はスペインで起こっており、日本とスペインとでは著作権に関する考え方が異なります。
日本の著作権法に当てはめた場合に、はたしてセシリアさんに著作権は認められるか、この判断は難しく、専門家の意見も分かれているようです。
ポイントは「修復」です。
セシリアさんの行為が「修復」にとどまると考えれば、修復画は著作物とならず、著作権は認められないことになるでしょう。
他人の作品の「模倣品」(創作が加わっていないもの)は著作物となりません。
一方、修復のレベルを超え、オリジナリティ溢れる絵であると評価すれば、著作権が認められる可能性がありそうです。
また、セシリアさんの修復画を「二次的著作物」(著作権法2条1項11号)の著作権があると考える専門家もいるようです。
「二次的著作物」とは、例えば外国の小説を日本語に「翻訳」した場合のように、
一つの著作物を「原作」として新たな創作性を加えて創られたものをいい、原作となった著作物とは別の著作物として保護されます。
もっとも、修復画が「二次的著作物」となるかは議論となるところでしょう。
元はキリストの絵ということもあり、大きな争いになる前に解決するとよいですね。