登録できない商標 ~記述的商標(商標法3条1項3号)~

こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。

今回はニュース記事から離れて、商標の一般的な話をします。

商標は、特許庁へ出願さえすれば何でもかんでも登録が認められるものではありません。
オールオッケーの世界ならば、私のような商標専門の弁理士は必要なくなってしまいますね(笑)。

実際、弊所の「厳密調査」でも半数近くは「商標登録される可能性は低い」という結論になります。
また、一般に、商標登録出願後に特許庁の審査官から「拒絶理由通知(登録を認めない旨の通知)」を受ける率は約60%にも及びます。年間7万通ほどの拒絶理由通知が出されているのです。

弊所の商標登録成功率は96.41%程度と高い水準にありますが、商標登録の可能性を総合的に判断できるようになるには多面的な知識と経験が必要となります。

この記事では、「こんな感じの商標は登録できないのね」という大ざっぱな感覚をつかんでいただくことを目的とします。
これだけでも商品名・サービス名(商標)を考える際に役立てていただけるはずです。

商標登録の2つの壁

商標法には、「こういう商標は登録できる」といった規定はありません。

「こういう商標は登録できない」といった規定が30近く列挙されており、これに1つでも該当しないことが商標登録の条件となっているのです。

ざっくり言うと、商標登録には2つの壁があります。

1つ目の壁は、「商標登録に適さない商標は、登録が認められない」です。

この1つ目の壁を超えると待っているのが、「先に登録(出願)された商標に似たものがあれば、登録が認められない」という2つ目の壁。
「商標は、原則早いもの勝ち」と言われる所以です。

今回は1つ目の壁の中で「記述的商標」と呼ばれるものについて解説します。

記述的商標とは?

この「記述的商標」はやっかいで、実務でもこれが原因となって商標登録が認められないケースが多々あります。 1つ目の壁のほとんどが「記述的商標」と言っても過言ではありません。

さて、「記述的商標」とはなんぞや?
まずは、条文を見てみましょう。

(商標法第3条第1項第3号)

その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができない。

ここに挙げられている商標は、商品又は役務(サービス)の一定の状態を記述する内容の商標であるので、「記述的商標」と呼ばれているのです。

例えば、商品「ワイン」について「フランス」(産地)、役務「衣服の貸与」について「婚礼」(用途)であれば、「記述的商標」となります。

「記述的商標」が商標登録できない理由は、「これらは通常、商品又は役務を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人も使用をする必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものだから一私人に独占を認めるのは妥当ではなく、また、多くの場合にすでに一般的に使用がされあるいは将来必ず一般的に使用がされるものであるから、これらのものに自他商品又は自他役務の識別力を認めることはできない(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説)。」からとされています。

商標登録されれば商標権者以外は勝手に使用できなくなるので、登録させてはマズイ商標は登録を認めないよということですね。

記述的商標の例

<商品について>

産地・販売地
: バッグに「東京赤坂」
品質
: 清酒に「吟醸」
原材料
: 洋服に「WOOL」
効能
: 入浴剤に「疲労回復」
数量
: 鉛筆に「1ダース」
形状
: ラジオに「ポケット」
価格
: 飲料水に「100円」
生産方法
: せんべいに「手焼き」

<役務(サービス)について>

提供の場所
: 飲食物の提供に「札幌ススキノ」
: 預金の受入れに「定期」「普通」
用途
: 衣服の貸与に「葬祭」
態様
: 飲食物の提供に「セルフサービス」
提供方法
: バスによる輸送に「貸し切り」
提供の時期
: 英会話の教授に「夏休み講座」

「その商品」、「その役務」

商標法第3条第1項第3号は「その商品」、「その役務」と規定しています。
よって例えば、鉛筆に「疲労回復」であれば「その」に該当せず、商標登録できる可能性があります。

(「その」に該当しない商標の例)
商標登録第3281840号 指定商品「せっけん類,香料類,化粧品」など

吟醸

「普通に用いられる方法で表示する」

そのままでは「記述的商標」になる言葉であっても、極めて特殊な態様で表示すれば商標法第3条第1項第3号に該当しないことになります。
デザイナーが創作したデザイン文字などが例として挙げられます。

(極めて特殊な態様で表示された商標の例)
商標登録第5116281号 指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授」など

神戸学校

「のみからなる」

記述的商標に該当する文字を含んでいても、他に識別力を有する文字や絵などが含まれていれば商標法第3条第1項第3号は適用されません。

(識別力を有する絵が含まれている商標の例)
商標登録第5180782号 指定役務「マッサージ及び指圧」など

疲労回復本舗

品質などを間接的に表示する商標は、本号に該当せず

品質などを直接的に表示するような商標は商標法第3条第1項第3号に該当しますが、品質などを暗示させるような間接的なものであれば商標登録される可能性があります。

例えば、カレーのもとに「激辛カレー」であれば商品の品質などを示しているに過ぎないので、商標法第3条第1項第3号に該当する可能性が高いでしょう。

一方、下記の商標は登録されています。

商標登録第4697195号 指定商品「カレー・シチュー又はスープのもと」

迫力満点

この商標は、審査段階では登録が認められませんでした。
理由は、「『具材を大きく加工し、ボリューム感のある、換言すれば、食べる人の心に迫る感覚に申し分がない』旨を看取させるものであるから、これを本願指定商品に使用するときは、前記意味合いの商品であることを表し、単に商品の品質を表示するにすぎない。」というものです。

しかしながら、審判で争って商標登録が認められました。
審判では、「迫力満点」は「具材を大きく加工し、ボリューム感がある」という意味合いを暗示させるに過ぎず、商標法第3条第1項第3号に該当しないと判断されたのです。

商品名・サービス名を決定する際には

商品・サービスの特徴をお客様に簡潔に伝えることができる表記を商品名・サービス名(商標)としたいということは多々あるかと思います。

しかしながら、特徴をそのまま表記しただけでは「記述的商標」となり、商標登録が認められません。

今回の記事や、世の中の商標を参考に、「記述的商標」となることを回避しつつ素敵な商品名・サービス名(商標)を考えてみてください。

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