米国ディズニー「死者の日」の商標登録を断念 ~ 商標法以外に考慮すべきこと ~

米ディズニー、メキシコの祝日の商標化を試みるも断念

米ウォルト・ディズニーが、メキシコの祝日である「死者の日」の商標化を断念したとロサンゼルス・タイムズ紙が報じた。

ディズニー傘下のピクサーでは、現在「死者の日」にインスパイアされた映画企画が進行中で、仮タイトルは「死者の日」を意味するスペイン語の「Dia de los Muertos」となっていた。映画の公開に備え、ディズニーは米国特許商標庁に「Dia de los Muertos」の商標を申請。玩具やシリアル、ジュエリーといった関連商品の発売に備えた措置だが、メキシコをはじめとするラテンアメリカで伝統的な祝日の名称を独占しようという動きに、インターネットで反対運動が勃発。change.orgでは署名運動が巻き起こり、1万9500人の署名が集まった。

運動を指揮したグレース・セスマ氏は、「われわれのスピリチュアルな伝統はみんなものであり、ウォルト・ディズニー社のような企業が商標化して、搾取するものではない」と説明している。こうした反対運動を受け、ディズニーは商標獲得を断念。タイトル変更を余儀なくされたという。

ディズニーが商標化をめぐって批判を浴びたのは今回が初めてではない。2011年、オサマ・ビン・ラディン殺害が行われた1週間以内に、作戦を実行したアメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズの「Sealチーム6」の商標化を試みた。しかし、ネイビーシーズル側が商標を申請したため、辞退した経緯がある。

【2013/5/12 映画.com速報 http://eiga.com/news/20130512/1/

メキシコの画家:ホセ・グアダルーペ・ポサダの版画

こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。

久々の商標NOWとなってしまいました(・・・反省)。

ディズニーと言えば、夢と魔法の国。
そんなディズニーに似つかわしくない「死者の日」という言葉が、米国で問題となったようです。

記事によると、ディズニーは、「死者の日」を意味する「Dia de los Muertos」の商標登録出願について米国特許商標庁(USPTO)に拒絶されたわけではないようなので、登録できる可能性はあったことになります。

つまり、商標登録が認められる可能性はあったものの、それを世間が許さなかったわけですね。

商標と信用

今回の騒動は米国で起きたものですが、日本では商標法の目的について下記のように規定されています。

この法律(※筆者注:「商標法」のこと)は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発展に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

例えば、自社製品のバッグに商標「ABC」を使用し続けると、業務上の信用を獲得できることがあります。
需要者が商標「ABC」が付されたバッグは質がいいと評価すれば、リピーターになってくれることが期待できますよね。

さらに言えば、質は同じ(ex.原材料や職人が同じ)でも、「Hermès(エルメス)」のバッグと「iRify」のバッグでは、販売価格に大きな差が生じます(笑)。
「Hermès(エルメス)」には、質の良さだけでなく、このバッグを持っていると誇らしい気持ちになる、周りに自慢できる等の力(ブランド力)があるからです。

もし他人が自由に「Hermès(エルメス)」を使用できるとすると、粗悪品も多く出回るでしょうから、
「Hermès(エルメス)」商品の信用は低下してしまいますよね。

もちろん「Hermès(エルメス)」は商標登録されていますから、他人が勝手に使用することはできません。
商標法の目的に記載されている「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持」が図られているわけですね。

商標は、その言葉(商標)自体に価値があるわけでなく、そこに蓄積された信用に価値があるのです。
登録商標「Google」や「Yahoo!」には莫大な財産価値がありますが、起業したばかりで世の中にまったく知られていない時にはたいした価値はなかったでしょう。

信用が蓄積されていない商標や信用が蓄積する見込みのない商標は、価値が低いわけです。

米国においても、商標には信用が大事という点は日本と変わりません。
世間の反感を買うような商標に、信用が蓄積されることはないでしょう。
ディズニーの商標登録断念は、当然の結果と言えます。

商標登録をする場合(商品やサービスのブランドを決める場合)には、その商標に信用が蓄積される可能性があるか(ブランドとして育つ可能性があるか)という視点も持つようにしてください。

以下に、日本で世間の反感を買ってしまった商標事件を紹介します。

「阪神優勝」事件

阪神優勝

阪神タイガースが18年ぶりのセントラル・リーグ優勝を果たした平成15年に話題となりました。記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

実は千葉県在住のT氏(個人)によって、平成13年3月15日に第25類「被服,ガーター,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「遊戯用器具,おもちゃ,人形,運動用具」を指定商品とする商標登録出願がされ、平成14年2月8日に商標登録されていたという事件です。

最終的には、阪神球団による無効審判請求によってT氏の「阪神優勝」は無効(初めから存在しない)とされましたが、無効とならなくとも「使えない商標」になっていたと思われます。

阪神ファンであれば、まずT氏の商品は買わないですよね。当時、「阪神優勝」Tシャツを着て阪神タイガースの応援に行き、果たして無事帰還できたのか・・・(笑)

「ギコ猫」事件

タカラのWEBページに掲載された謝罪文

株式会社タカラが平成14年3月12日に、巨大掲示板「2ちゃんねる」のマスコット的存在である「ギコ猫」を商標登録出願したことによって起きた騒動です。

タカラが「ギコ猫」を商標登録出願した事実は、平成14年6月2日に、2ちゃんねるニュース速報板にて「【商標】『ギコ猫』はタカラの猫?【申請中】」というスレッドが立てられたことで瞬く間に広まりました。

2ちゃんねる参加者は、これを2ちゃんねるに対する挑戦と受け止め、タカラ商品の不買運動、各マスコミへのタレコミなどを呼びかけたようです。
タカラへ相当程度の抗議メールが殺到したことも想像に難くありません。

タカラは、翌日の平成14年6月3日に「ギコ猫」の出願を取り下げました。つまり、商標登録を断念したわけです。 この素早い対応によって、2ちゃんねる参加者の怒りは収まったようですが、対応を間違えればタカラは会社全体の信用を失いかねませんでした。

2ちゃんねる関連では他に、エイベックス ネットワーク株式会社の対応が問題となった「のま猫」事件があります。

まとめ

商標権は、他の知的財産権(特許件、実用新案権、意匠権)と異なり、更新料を納めることで半永久的に存続し得る権利です。
適切に使用すれば、どんどん信用が蓄積していきます。

今回の事件を教訓にして、お客様の信用が得られる商標を考えるようにしてください。

それでは、今回はこのへんで。

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