会社名(会社名(商号))「ABC株式会社」を登記しています。
昨年から自社のハンカチの右下に「ABC」の刺繍を入れて販売しています。
「ABC」について商標登録はしていませんが、会社名なので他社から商標権侵害として訴えられる心配はないですよね?
回答
「会社名(商号)(の一部)」であれば、商品やサービスに自由に使用できるとはいえません。つまり、商標権侵害となる可能性があります。
「会社名(商号)」と「商標」とは、性格が異なるからです。
まず、「会社名(商号)」について説明しましょう。
「会社名(商号)」は、商人や会社が営業に関して自己を表すために用いる名称のことをいい、法務局が管轄しています。
原則として、本店住所が異なれば、同業種であっても同じ会社名(商号)を登記することができます。
したがって、「同じ」・「似ている」会社名(商号)が国内に数多く存在している可能性があります。
一方、「商標」は、自分の商品・サービスを他人の商品・サービスから区別するためのマーク(需要者が商品・サービスを選択する際に目印となるもの)のことをいい、特許庁が管轄しています。
商標登録されれば日本全国に保護が及び、その「商標」を独占して使用することができます。また、「似ている」商標についても権利が及びます。したがって、権利内容が「同じ」・「似ている」登録商標は国内に他には存在しないことになります。
このように「会社名(商号)」と「商標」は別物であり、会社名(商号)であれば商標登録しなくてよいとはなりません。
本件の「ABC」は、他社のハンカチと区別するためのマークとして使用されているといえます。このハンカチを見れば、「ABC」ブランドのハンカチだと思いますよね。つまり、「ABC」は「商標」として使用されていることになります。
そうすると、他社が「ハンカチ」について「ABC」を商標登録している場合は、その商標権の侵害となってしまいます。販売していることが相手方(商標権者)に知られてしまえば、販売の差し止めや損害賠償を請求されてしまうリスクがあるということです。
「会社名(商号)」を登記していることは、商標権侵害を免れる理由とはなりません。
これは、「ABC株式会社」の刺繍を入れていた場合も同様です。
商標権は似ている範囲にも効力が及ぶので、「ABC株式会社」は「ABC」に似ているとして商標権侵害となります。
よって、「ABC」を使用したハンカチの販売はすぐにでもやめるべきでしょう。
一方、「ハンカチ」あるいは「ハンカチと似ている商品」について、「ABC」あるいは「ABCに似ている商標」が登録されていない場合は、今のところ商標権侵害とはなりません。
ただし、後からでも「ABC」あるいは「ABCに似ている商標」を他社に登録されてしまうと、商標権侵害となります。
つまり、先に「会社名(商号)」を登記していても、他社がそれと同じ・似ている「商標」を登録することを阻止することはできないのです。
商標法は、原則として、先に特許庁へ商標登録出願したものに力を与えます。
また、他社が「ABC」ハンカチを販売している場合に、「会社名(商号)」を登記していることを理由としては、その販売行為をやめさせることはできません。
「会社名(商号)」には、「商標」のように他社の使用をやめさせる効力はないからです。
他社の販売行為を差し止められなければ、本件ハンカチの売り上げが落ちる可能性があるでしょう。さらに、他社の「ABC」ハンカチが粗悪品であった場合は、その巻き添えをくらって、本件ハンカチの評判・信用も低下してしまうかもしれません。
ビジネスを行う上で商標登録をしないリスクが大きいことがおわかりいただけるのではないでしょうか?
現実社会を見ても、例えば、「パナソニック」は会社名(商号)「パナソニック株式会社」の一部ですが、いくつも商標登録されています。「ソニー」も同様です。
なお、原材料などが書かれたハンカチのタグに「製造元:株式会社ABC」と記載しているだけの場合は、他社が「ABC」を登録していても商標権侵害とはなりません。
このような記載は、「商標」として「株式会社ABC」を使用していることにはならないからです。
したがって、「商標」として使用することが一切ない「会社名(商号)」であれば、商標登録は不要です。