特許紛争-標的にされる日本勢(前編)

特許紛争 日本勢が標的

ソニー、NEC、KDDIなど国内大手電機・通信会社がスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)や携帯端末関連の特許紛争に相次いで巻き込まれている。4月には米特許管理会社が国内企業20社以上に警告状を送付。海外で係争に発展する例も増えている。スマホは先端技術を集めた世界的な成長製品だけに特許紛争が起きやすく、同分野の特許戦略で後れをとっている日本企業が標的となっている。

2012/4/25 【日本経済新聞】

フェイスブックとヤフーのロゴ

こんにちは。iRify特許事務所・所長弁理士の加藤恭です。

最近、スマートフォンや携帯電話関連の特許を巡って、多くの訴訟が起こされています。
インタ-ネットサービス大手の米国・ヤフーが、交流サイト(SNS)最大手・フェイスブックを特許権侵害で訴えたのは、記憶に新しいところです。

近ごろ頻発するスマホ分野での特許紛争ですが、実は日本企業が標的にされることがとても多いのです。

これは、特許戦略で遅れを取っている日本企業の脇の甘さが主たる原因なのですが、そういった中でも、自社の基本特許を知的資産として上手に活用し、孤軍、米国の名立たる大手IT企業らを特許権侵害で訴えている日本の企業もあるのです。

それは、今まで無名だった、社員わずか8名のベンチャー企業・『イーパーセル株式会社』。

この会社の知財に対する認識や態度は、今後、世界に進出していく日本企業にとって、ひとつのよい見本になるのではないかと思います。

それでは、世界のスマホ・携帯電話関連の特許紛争事情を俯瞰した上で、このイーパ-セルの知財戦略について詳しく見ていきましょう。
今回の『商標登録NOW』は、前・後編でお届けします。

米国では新旧の大手同士が火花を散らす-仁義なきIT特許紛争

GPHに訴えられたLG電子(韓国)のロゴ

IT業界では勝ち組と負け組みが二極分化していると言われており、そういった中で、「業績不振に喘ぐ老舗」が「新興の企業」を提訴する例が増えています。

例えば、グラフィックス・プロパティーズ・ホールディングス(GPH/旧シリコン・グラフィックス)が、米国・デラウェア州の連邦地方裁判所に起こした訴訟などは、まさにそういった例に該当します。

GPHは3月、自社の画像関連技術が無許可で使われているとして、アップルや韓国・サムスン電子、韓国・LG電子、台湾・HTC、カナダ・RIM(リサーチ・イン・モーション)、そしてソニーの6社を、特許権侵害で訴えています。

また、そういった特許紛争の事例として、今一番、世界の耳目を集めているのは、ヤフーとフェイスブックの件でしょう。

フェイスブックは新時代のシリコンバレーの寵児として、まさに日の出の勢い。4月23日の時点で利用者数が、全世界で9億人を突破したと発表しています。
伴って、広告収入も増え、2012年1~3月期の業績は前年同期比で45%増の10億5800万ドル(約860億円)に達しています。

株式公開を目前に控えた好調のフェイスブックに対して、経営不振に苦しむヤフーが、今までに取得してきた特許を活かして訴訟という手段に出ているわけですが、現在、フェイスブック側も訴訟対策に勤しんでいるようです。

具体的には、マイクロソフト社から、特許650件を450億円で購入するとのこと。
フェイスブックは以前にも米国・IBMからおよそ750件の特許を取得しています。
ヤフーとの交渉を少しでも有利に進めるために、保有する特許を増やす必要があったのですね。

特許取得に遅れた日本企業―特許訴訟に対して無防備に近い現状

リーマン・ショック後の景気低迷に伴って、日本企業は著しく知財分野への投資を減らしてしまいました。研究開発にも消極的になり、特許公開件数も減少。

イタリアの特許管理会社シズベル日本法人の二又俊文相談役は、次のように指摘しています。

―「スマホに使われる特許数は10万件以上だが、日本企業が保有する必須特許は1割以下ではないか」(4月25日・日本経済新聞より)

…日本企業の知財戦略に関して、このご指摘は大きな警鐘として胸に響くものですね。

ソフトや通信など多くの技術を集積したスマホについて、その中の重要な特許をすべて網羅するのは、現実的に出来ることではありません。

もちろん、それはそうなのですが、先に紹介したフェイスブックの“特許一括取得”などの精力的な動きと比較すると、日本企業の権利武装はまだまだ不十分、きつい言葉を使うと、「無防備」と言わざるを得ないかもしれません。

「特許管理会社」にとっては、日本企業はいい標的?

広範な特許が絡み合うスマートフォン

さて、繰り返しになりますが、スマホ分野はカバーする技術分野が広範多岐にわたるため、重要特許を一部の企業ですべて押さえるのは、事実上、不可能です。

―そこを“狙い撃つ”のが、「特許管理会社」。

「特許管理会社」とは、特許権の売買を主業務とする企業のことで、自社ではサービス・製品の提供は行いません。
経営破たんした企業などから特許権を買い取り、自社で保有しておいて、メーカーなどにその特許使用料の支払いを求めます。

そして、メーカーとの交渉が決裂した場合には、損害賠償請求や製品・サービスの差し止めなどを求め、特許紛争に持ち込むのです。

このような「特許管理会社」の中で悪質なものは、“パテント・トロール(特許の怪物)”などと呼ばれることもありますが、米国などでは上場を果たすなど、社会的な地位もある程度認められています。

弁護士や個人発明家が起業する例が多いようですが、確かに、その専門性と豊かな経験のもとで、まじめに特許運用を行っている会社も少なくないのかもしれません。

しかしながら、こういった「特許管理会社」は、保有する特許で実際に事業を行っているわけではないので、事業会社間で互いに特許使用を認め合う「クロスライセンス契約」(過去の『商標登録NOW 「ヤフー、特許侵害でフェイスブックを提訴 狙い撃ち? 株式公開(IPO)直前のこのタイミング」』を参照)などで紛争を回避するといった対策が講じにくいのです。

すべての「特許管理会社」が悪質なパテント・トロールだとは言いませんが、メーカーにとっては頭痛の種と言わざるを得ないでしょう。

「特許管理会社」の攻勢に、後手後手に回る日本企業

現在、特許紛争に巻き込まれているNECとSONY

そして実際に、特許の権利武装が甘い日本企業は、海外の「特許管理会社」の格好の標的にされているのです。

日本経済新聞の紙面で紹介されている例を挙げてみましょうか。

◎米国系「特許管理会社」プロント・ワールドワイド・リミテッド
イギリス領バージン諸島に登記上の本社があるこの特許管理会社は4月上旬、ソニーやNECなどに警告状を送付。 また、すでに米国ではソニーと任天堂を訴えていて、2社に対して計500億円を請求しているといいます。
◎ドイツの「特許管理会社」アイピーコム
 
この特許管理会社は、日本の電気通信事業者であるイー・アクセス株式会社を2011年夏に特許権侵害で東京地方裁判所に提訴。損害賠償と携帯端末の販売差し止めを求めています。
◎ある欧州系「特許管理会社」
この特許管理会社もKDDIを特許権(通信技術に関する特許)侵害で東京地裁に提訴。現在、係争中とのことです。

このように、日本の企業は、海外の「特許管理会社」からの警告や訴訟の矢面に立たされており、スマホ関連の特許に関する紛争の件数は、3年前よりも2割以上増えているといいます。

富士通やソニーなどは、経営破たんした同種の企業から関連特許を購入し、権利武装し始める動きも見せていますが、まだまだ十分とは言い難い状況です。

そのような、防戦一方の日本勢の中にあって、日本のベンチャー企業『イーパーセル株式会社』は、自社の基本特許を活用し、米国の大手IT企業を果敢に攻めています。

訴訟の相手は、なんと、あのグーグルやヤフー!
一見すると無謀な戦いのように思えますが、果たして勝算はあるのでしょうか?

次回の「商標登録NOW・後編」では、この『イーパーセル株式会社』の知財戦略について、見ていきたいと思います。

後編はこちら→ [ 特許紛争-標的にされる日本勢・後編 ]

あるなし商標検索バナー